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zoom RSS 「真夜中に猫は科学する」の続編的な何か(2)

<<   作成日時 : 2016/12/03 01:46  

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(1)からのつづきです。(http://tanunyan.at.webry.info/201612/article_2.html)

遺伝的多様性について、エクレア教授の講義が続いています。
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「じゃぁ、種と亜種って何が違うの?」

「種という括りの中に、亜種というのがあるんだ。亜種は、姿形は似ているけど、住んでいる地域が違ったり、食べるものが少し違ったりする。うちのセンセイの話では、同じ種の中の亜種同士では子供を作ることができる。その子供は、さらに次の世代の子供を産むことができるらしいんだ。見た目は少し違っても、そうやって次の世代を作り続けることができる関係のうちは、両者は亜種って呼ばれる。それができなくなると、亜種ではなく種となる。つまり、子供は親から半分ずつ遺伝子を貰うよね。両方の遺伝子が離れすぎてしまうと、次の世代が作れないんだ。だから、亜種というのは遺伝的に近い距離にある生物で、種というのは、それよりもずっと遠いってことだ」

サスケが「うにゃ」と小さく鳴きながら、ゴロゴロと草むらを転がる。頭の周りにハテナマークが浮かんでいるのが見えるようだ。

「では、ヤマネコと我々の間では子供は生まれるということですか」

トラノスケが、多くの猫たちの頭に浮かんでいるだろう疑問を、ようやく口にする。

「そういうことをしようとしている人間もいる。だから、出来ないわけではないらしい。ただ、ヤマネコとイエネコとではかなり違いもあるようで、流産してしまうことが多いと言っていた。でも亜種同士では、上手くいけば子供が生まれて、その子供がまた子供を産んで増えていくことができる。一方、種のレベルまで離れてしまうとそれが難しいらしい。僕たちの遠い親戚のトラとライオンは、遺伝的には離れていても子供ができるらしい。でも生まれた子供には繁殖能力が無い。それ以降の世代が生まれないんだ。種が違うからだよ。とはいえ、この辺りの分類は厳密ではないみたいだ。それ以上のことは話していなかったからよくわからない」

エクレアは右手で自慢のヒゲをピンピンと弾く。

「さすが教授、本当に何でもご存じなのですね」

最前列でエクレアを見上げるモンブランの瞳は、今夜もハート形になっていた。

「では、毛が短いとか長いとか、白とか黒とか、そういうことに関係なく、私達は同じイエネコなんですか?」

集団の真ん中あたりで小さな手が上がる。もう一匹のカエデの子、モミジが、オレンジ色の尻尾をピンと伸ばしている。

「そうだよ」

「えー。でも、例えばアメショーとか、由緒正しい血統の猫もいるでしょう?」

アメショーと呼ばれる女性は、名前の通り、シルバータビーのアメリカンショートヘアだ。いきなり名前を呼ばれたアメショーが、声のした方を振り返った。

「純血種って、人間は呼んでますよね。俺なんか、アビシニアンミックスとか呼ばれて、雑種だから安かったとか、同居人がそんなこと言ってるの聞いたことあります」

ルディが振り返ったアメショーと顔を見合わせた。

「猫の世界では、純血種を保護するために純血種同士でしか結婚させないなんてことさせられているね。品種は亜種とは違う」

「そんなのひどいや。好きな相手と結婚できた方が良いのに。ねぇ」

ルディは、横に座っているヒメをちらりと見ながら、わざとらしく大きな声で言った。

「でも純血を保つのも大事よ。私は自分のバーマンって品種に誇りを持っているもの」

「えー、そうなの? ねぇ、そうなの??」

ヒメの素っ気ない一言にルディは慌てふためく。ヒメはプイッとそっぽを向いて、わざとルディに背を向けて歩き始めた。

「純血を保つのって、本当に大事なんですか?」

暢気なサスケが、ルディの焦りなどお構いなしで、間延びした声でエクレアを見上げる。

「うーん。それは難しい質問だな」

珍しく、困った顔でエクレアは両手を組んだ。

「生物にとって、その種を維持することはとても大事だ。でも、それとは別に、遺伝的多様性も維持しなくてはいけない」

「なんですか? それ?」

「遺伝子の組み合わせに選択肢がたくさんある状態ってことだよ。それには数がたくさん必要だ。小さな集団内で子供を作ってばかりいたら、だんだん似たような遺伝子ばかりになってしまう。純血種って言うのはそういう状態で、例えばヒメの品種なら、長毛であること、顔の中央部分と両手足が茶色いということ、そういう特徴が純血であればずっと維持されていく。人間はおかしな生き物だから、予定通りに生まれてくることをとても大事にしていて、純血を保とうとするんだ」

「えー。ってことは、ヒメも同じ品種のやつと結婚させられるってことか? そうなのか?」

ルディはまだしつこくヒメを追いかけ回している。

「でもそれだと、遺伝的多様性が保てないということですよね?」

ヒメを追って広場をウロウロと歩き回るルディの背中を目の端で追いながら、それまで黙って聞いていたモンブランが、おもむろに口を開いた。

「そういうことになるね」

「遺伝的多様性が保てないと何が困るんですか?」

真ん中あたりから雪のような白い手を上げて、ユキが小さな声で質問をする。

「僕たちが暮らしている世界は、その環境がいろいろと変化する。なんでも、草も生えないような暑い国や、冬の間、ずっと深い雪に覆われている国もあるらしい。本来の僕たちは、そういう環境に合わせて進化してきたんだ。サスケやルディみたいに短い毛では、寒い環境では生きていけないよね。でも僕のように何層にもなった厚い毛を持っていれば、雪の中でも寒くないし濡れることも無い。その代わり、暑い夏には死にそうになる。僕の故郷は、寒い国らしいんだ。寒い国で進化した。つまり、同じリビアヤマネコから生まれた僕たちだけど、進化の過程で、寒い環境に適した体になったり、暑い環境に適した体になったりしてきたってことだ」

「遺伝子に、多様に変化するゆとりがあるってことだな」

丸太の上で横になっていたキララが、大きな尻尾をゆっくりと振った。

「上手い表現をするね。キララ」

「つまりあれだろ? 遺伝子の種類がたくさんあるってことは、組み合わせの可能性が多い。環境が変わった時にもそれに適応して生存できるヤツが生まれる確率が高いってことだ」

「そう。種の生存の可能性が高まる」

「環境が変わったら、生き残るのは俺だな」

広場の片隅で、小さな声がした。

「何だよ、俺に決まっているだろ?」

それに応じるもうひとつの声。

「どうしてお前なんだよ。俺に決まってる」

「お前のわけないだろう!」

そのやり取りの声は、徐々に大きくなっていく。

「そっちこそ、お前のわけないだろう!」

恒例の、コタロウとレオの兄弟喧嘩が勃発だ。

ヒメを追いかけるルディと、コタロウとレオの取っ組み合いが重なって、広場はいつになく騒々しい。

「頼むよ、キララ」

苦笑いを浮かべたエクレアが、キララの介入を要請する。

「おいおい。俺はあいつらのお守役じゃないぞ」

キララも呆れたように小さく笑う。

「そこをなんとか」

「ったく、仕方ないな」

めんどくさそうに起き上がって、大きく伸びをする。

「おい。お前ら仲良くどっちも絶滅するか?」

キラリと目を光らせながら、バリバリと音を立てて丸太に爪を立てた。

コタロウもレオも、ヒメもルディもその場で足を止め、尻尾を丸め込んで耳を垂れた。

「いい仕事するね、警備隊長殿」

エクレアが片目をつぶってキララに微笑みかける。

「お前には敵わないよ」

モンブランがうっとりした表情でエクレアを見つめている。

「つまり、同じ種の中にも、遺伝子の組み合わせにはいろいろな種類がある方がいいんだ」

「夕飯が、毎日同じ種類なのと、10種類が交代で出てくるのと同じですか?」

「多様という言葉の意味では同じだね。選択肢が多いってことだ」

「お。珍しくサスケの理解が早いぞ」

ブッチーが揶揄したので、広場に笑いが溢れた。

「それと同じ考え方で、生物多様性という言葉がある。そろそろ時間のようだ。その話はまた次回。では諸君。今宵も良い夜を」

猫たちが去った広場に冷たい風が吹き込んできた。

今夜も冷ややかに、夜が深まっていく。

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裏の空き地で夜中にひっそりと開かれている猫達の集会。 実はその集会では、科学についての講義が開かれていた・・・・ というコンセプトのお話「真夜中に猫は科学する」ですが、ちょこっと続編的なものを書いてみました。 ...続きを見る
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